第9話

アニメオリジナルの話。時系列的にはアニメで言えば最後になる。月は11月。内容は取り留めの無い本当に日常の話。ハルヒがなにかしでかす訳でもない、朝比奈さんと時間旅行する訳でもない、長門の魔法じみた情報の書き換えもない。だからこそ今までで一番現実味がなかった。SOS団は何か奇怪な事件に巻き込まれるって言うのがハルヒ・シリーズでのデフォルトではあるのだけど、一年間365日を考えれば普通の日が多いのは当たり前のこと。しかしその当たり前を改めて認識させられた回でもあり、また自分自身がSOS団ではない!つまりアニメと現実との間に壁を感じた話だった。

今までの話はもちろん空想の話だ。現実には宇宙人、未来人、超能力者なんて居ないし、ましてやハルヒなんて女の子は実在しない。だけども空想的な話であるからこそ現実を忘れて物語のなかに入り込める。自分がSOS団員な気がするし、ハルヒは実在しているような感覚にもなる。だけども今回の話は全く逆だ。何も起こらない世界。普通の学校、放課後、電車、友達。それは日常。誰のかって言うとキョンの日常だ。人の日常に自分を投影できる人は珍しいはずだ。だからこそこの話には壁を感じる。自分たちとは関係ない人たちの話なんだって。

これは時系列的にはアニメのラストの話。だからDVDで見るなら最後にみる事になる。アフター・ストーリーみたいな位置づけなんだろう。いろんな事が起きたSOS団に自分を投影して楽しんでいた視聴者は物語の最後で急に世界を失う。しかし物語のなかではちゃんとキョンハルヒという人物は存在し続けている。そして視聴者は目が覚める。自分が生きているのは現実なんだと。しかしこれは物語が終わったショックの緩和剤になってくれるはず。学園物とかを読み終わったあとに来る喪失感は結構つらいものがある。どっぷり入り込んでいた世界がなくなってしまうのは悲しいものだ。だけど今回のハルヒの話のようなものがあれば和らぐと思う。アニメの世界から自分を隔離できるし、さらにその世界も続いているんだと思えるから。


作者・谷川流さんが何を考えてこの話を書いたのは分からない。俺が書いたことなんて全く考えていないかも知れないし、むしろ真逆だったりするかもしれない。それでも少しはこの記事にと同じ思いの人が居れば嬉しいと思う。それともしこれが狙いならこの全く入り込む隙が無い完璧な日常を書いた作者に感服する。